調査研究報告Research
研究員コラム
研究員コラム「サステナビリティ開示の関心は気候変動から人的資本投資へ?」を発行しました。
要旨
最初に、ここでは開示の議論を行っている。アンチESGとレッテルを貼られた米国の動向も、実際には気候変動関連に対する対策に疑義を挟んでいる訳ではない。筆者も、気候変動に関連して、影響度合いの大きな企業で且つ、今後気候変動に関連して独自にマテリアルだと判断した場合、当然それらをきっちりと開示すべきだと感じている。
一方、以下本文で説明するように、米国の資産運用会社を中心にして気候変動関連に関するスタンスが大きく変化している。もちろん、これら資産運用会社も気候変動を軽んじている訳ではないと断言できる。しかし、国や法域を超えた一律的なサステナブルファイナンス思考に関する批判も大きくなっているということであろう。その動向は直近の米国企業の株主総会における株主提案及びそれに対する賛成票の動向を見ると明らかである。
気候変動関連は国際会計基準審議会(以下、IASB)の動きを見ても、非財務の財務数値化が視野に入っており、政治問題から実務的な問題へと移っている。そして今年、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は2年間で優先的に取り組むべき課題として「生物多様性、生態系、生態系サービス(BEES)」と「人的資本」を取り上げた。
そこで、本コラムでは、2020年8月にルール改正をおこなって、法定開示の中で人的資本開示の強化を打ち出した米国市場において、この動向が企業の人的資本開示にどのような影響を与えたのか、法定開示資料(10-K)における開示動向を調査してみた。その結果、人的資本としたタイトルを記し、記載を強化していることは認められるものの、定性的な記載がほとんどで、定量的な記載や、KPIの目標値を開示しているところはほとんど認められない状況であることがわかった。
その理由として、定量的な開示は「sticky」であり、一度開示すると止めることはできない。このため、企業はまず任意の開示の中から少しずつ開示の範囲を広げていこうという方向性であると思われる。これが本コラムの要旨であるが、興味があれば以下本文をご笑覧いただきたい。
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気候変動に関する動き①
資産運用会社のスタンス編
7月末に米国下院司法委員会のJim Jordan委員長(共和党、オハイオ州選出)と行政国家・規制改革・独占禁止小委員会のThomas Massie委員長(共和党、ケンタッキー州選出)が米国を拠点とする131の企業、退職制度、政府年金プログラムに対し「Climate Action 100+」を気候変動カルテルと位置付けをし、関与についての情報の提出を要求するレターを送付した。これは今に始まったことというよりは2022年12月に英国の大手経済紙が「米バンガード、脱炭素金融同盟から脱退を表明」として、バンガードが2021年に参加した資産運用会社におけるネットゼロを目指す「脱炭素金融同盟(Net Zero Asset Managers initiative :NZAM)」からの脱退のコーポレートステートメントが大きく記事として・・・