宝印刷株式会社
研究員コラム
小谷主席研究員

「サステナビリティを定義する」 企業開示 原点への回帰 - 2025年グローバルトレンドを総括して - 

要旨

  2025年のサステナビリティ情報開示を考える上で筆者が重要だと感じる事柄が二つあった。一つは、約一年前の2025年1月29日に欧州委員会による「競争力コンパス(Competitiveness Compass)」の発表だ。その趣旨は「競争力を回復し、持続可能(サステナブル)な繁栄を確保するためのEUの指針」としており、「イノベーション」、「脱炭素化」、「安全保障」を主要3分野として、これらを現実のものとするためのアプローチと主要施策の選択肢が提示されている。「サステナブル」という用語は環境や社会課題への配慮といった側面が強調されていたが、それらは単に環境や社会課題のみに焦点を当てるのではなく、「イノベーション」や「安全保障」という枠組みの中で成し遂げるべきものとして用語の定義をかなり大胆に変更してきた点である。

  もう一つは、英語圏においても「サステナビリティ」という核となる用語の定義が未だ共有されていない事に気付かせてくれたニュースである。昨年11月末、フロリダ州司法長官が、機関投資家向け議決権行使助言サービス最大手に対し、フロリダ州の消費者を欺き、株主総会議決権行使における支配的地位を濫用し、自らの影響力を武器化して米国企業およびフロリダ州の退職者にイデオロギー的なアジェンダを押し付けたと主張し訴訟を起こした。本コラムではこの訴訟について議論するつもりはない。ただ、訴状の項番111がとても興味深い内容だ。ここでは「Defendants fails to sufficiently define key terms, like "materiality" and seek to confuse consumers by mudding ill-defined concepts like "diversity" and "sustainability".」とある。つまり、「被告側(ここでは議決権行使助言企業)は『マテリアリティ』といった重要用語を十分に定義せず、『多様性』や『サステナビリティ』といった『曖昧な概念(ill-defined concepts)』を混同させることで、裁判所の判断を混乱させようとしている。」として英語圏ですら「マテリアリティ」「ダイバーシティ」「サステナビリティ」という用語の定義が未だ確定していない「曖昧な概念」であることを再認識させている点である。

  「サステナビリティ」という用語はロシアのウクライナ侵攻が開始される前まではどれだけ安く買える、或いは流通できるのかという「①経済的な側面」と、それら経済活動が環境に悪影響を与えないかという「②環境的な側面」そして、それらで得られる対価におけるバリューチェーンにおいて強制労働や人権侵害が行われていないかという「③社会課題的な側面」の3つを念頭においておけばよかった。しかし、紛争が激化する中でエネルギー問題を筆頭に企業のサステナビリティの定義には、どこの国にどれだけ依存出来るのかという「④経済安全保障的な側面」も十分に考慮する必要が生じて来た。つまり、国家が蹂躙される環境下では「サステナビリティ」が持つ意味合いが大きく変化している現状を認識することとなった。そのような環境下で、大きく理想論に傾いていた欧州が国の安全保障といった喫緊の課題や欧州経済の成長力確保に対処するためには、理想論で固められていた欧州企業サステナビリティ報告指令(CSRD)や企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)を大きく変更する必要性に迫られたのが2025年であったと言える。

 本コラムではこういった欧州や米国の2025年動向をベースに「サステナビリティ」という用語を定義してみた。関心のある方は以下ご覧いただきたい。

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