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研究員コラム

小谷主席研究員

研究員コラム「ドラギレポートで欧州のサステナビリティ開示規則はちゃぶ台返しになるのか?」を発行しました。

 非財務情報開示のグローバルな標準化が昨今進んでいるが、IFRS財団が推し進める国際サステナビリティ基準審議会のISSBスタンダードと、欧州企業サステナビリティレポーティング指令(CSRD)をベースに欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)が進めようとしている欧州サステナビリティ報告スタンダード(ESRS)の二つに分かれている。ISSBはIFRS S1とS2を発表し、産業別開示の取組は、SASBスタンダードをベースにすることで導入企業を増やしている。しかし、欧州に拠点をもつ日本企業にとってのサステナビリティ開示の懸念事項はESRSが今後どのようになるか?ではなかろうか。

 この問いに関連するレポートが9月に出た。提出者の名前をとってドラギレポート(注1)と呼ばれるこのレポートは日本メディアでは、「米中対抗へ『年間8,000億ユーロ(約127兆円)投資』EV政策を批判」というように「米中対抗のための投資」のみに焦点があたっているように感じる。しかし、地元欧州では、欧州が独自に推進しようとしているサステナビリティ開示のあり方についても大きな反響を呼んでいる。そして、このレポートは昨年欧州委員会委員長によってドラギ氏に正式依頼されたレポートであることも重要なポイントだ。今回はこのドラギレポートに関して少し議論をしてみたい。

要旨

  • 9月9日に発表されたドラギレポートでは、環境への配慮を急ぎつつも、経済政策の抜本的な変革を行わないと、「欧州の存続危機に瀕する」としている。
  • 原因の一つが米国を欧州と比較した際の競争力の低下であり、それに対応するために相応の資金調達と投資の必要性が述べられているが、債務負担を伴う資金調達に関しては概して世間では否定的意見が多い。
  • 欧州の存続危機のもう一つの大きな原因としてあげられているのが、欧州企業の負担となる規制の多さや重複であり、規制の簡素化が大きく望まれているとしている。
  • 発表されたドラギレポートにおいて実現可能な内容は、資金調達を伴う新規投資ではなく「抜本的な変革」における規制の簡素化に焦点が当たるとし、環境団体や非営利団体からは企業持続可能性報告指令(CSRD)や企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)の後退を示唆する内容ではないかという懸念があがっている。
  • 筆者は、企業の過大な負担の問題点として欧州CSRDにおけるダブルマテリアリティがその一因であると感じている。この適用は中堅企業にとっては、過度なコストや労力となり、その負担増による相対的な欧州企業の競争力低下が問題視されている。
  • 国際金融協会(IIF)が発表した同時期の論文(注2)において、現在主流となっている金融中心の「変革理論」を再評価する必要があると主張している。
  • 世界の非財務情報開示標準化は国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)と欧州のCSRDをベースにした欧州サステナビリティ報告スタンダード(ESRS)の二つがあるが、「過度なコストや労力をかけずに使用」できる基準がISSBの基本的な理念であることや、ドラギレポートの問題提起を考慮すると今後グローバルなサステナビリティ開示はISSBスタンダードに収斂するのではないだろうか?

 興味のある方は次頁以降で少し具体的に述べているのでぜひこの後も本研究員コラムに目を通していただきたい。

    

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