宝印刷D&IR研究所

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調査研究報告Research

研究員コラム

小谷主席研究員

研究員コラム「米国SECの『新規則』に学ぶ非財務情報開示の要諦」を発行しました。

 なにやら政府は高齢者の定義を65歳から70歳に引き上げる検討をしているらしい。現在のところ、高齢者の定義は、世界保健機関(WHO)の65歳以上を高齢者としている事から日本でも65歳以上を高齢者としているそうだ。この定義でいうと、筆者も今年、高齢者と呼ばれる年代となる。自分は長文のコラムを書いているのに、他人の文章となると長文は読めなくなっているが、政府の検討次第では高齢者から高齢者でなくなるとても微妙なタイミングだ。このコラムを読んでいる方々はもっと若いのだろうがお忙しいに違いない。そこで今回はお忙しい方や高齢者のため、最初に結論3点を述べておきたい。


① 投資判断や議決権行使に資する情報をマテリアル情報と定義する

② 非財務情報という言葉が生まれる前から、気候変動であっても、社会課題であっても、既に投資家にとってマテリアルな情報は財務・非財務にかかわらず開示することが求められていた

③ マテリアルでない情報の多くは投資家にとって邪魔な存在でしかない。 従って、非財務情報は1997年からという長い歴史のあるGRIではなく2011年から活動を始めたSASBが発表したスタンダードをベースにした標準化指標がグローバルスタンダードとなった


 そもそも非財務情報開示などの議論以前から投資家は財務以外の情報も収集して投資判断をしていた。それが6つの資本だの、SDGsだの、ESGだの、サステナビリティだの言い出してから随分と焦点がぼやけて来た。決してこれらが重要でないと言うつもりはないし、とても重要だと思う。そして開示は投資家のためだけではなく地域、取引先、債権者、従業員等マルチステークホルダーのための開示という主張もおかしくは無いし、そういう考え方があってもよい。ただそういったマルチステークホルダー向けを意識した欧州企業の統合報告書は400ページから800ページにも上ることが多いし、余裕のある企業はそのような方向性で開示しても良いと思う。しかし、ここではこれから非財務情報開示を検討開始するような日本企業を対象に、日本の金融商品取引法における開示、つまり「有価証券の発行・流通市場において、投資者が十分に投資判断を行うことができるような情報を提供することを目的とする」ことを大前提とした議論に特化したいと思う。この大前提の下では、投資判断や議決権行使に影響する情報をマテリアルな情報と定義して、そのマテリアルな情報をきっちり開示する事を意識すれば良いだけの話なのだ。この考え方を再認識させてくれる材料が、3月6日に米国証券取引員会(以下SEC)が発表した「上場企業における気候関連の開示を強化および標準化する規則(以下「新規則」)である。今回のコラムはこの「新規則」を活用して非財務情報開示の要諦をまとめてみたい。但し、この「新規則」は発表から数時間で「賛成・反対」双方からの訴訟を受け、SECは発表したばかりの「新規則」の適用を一旦停止すると発表している。よって、「新規則」が今後どうなるのかは現段階では判断できない。しかし、「新規則」を導く過程で寄せられたパブリックコメントに多くのヒントが隠されている。興味のある方はぜひこの後も本研究員コラムに目を通していただきたい。

注:新規則のオリジナルは https://www.sec.gov/files/rules/final/2024/33-11275.pdf を参照のこと

    

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