宝印刷D&IR研究所

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調査研究報告Research

研究員コラム

小谷主席研究員

研究員コラム「人的資本経営の大きな勘違い」 -本質的な議論の必要性- を発行しました。

サステナビリティ開示関連で大混乱の欧州  

 2020年に議論が始まり、約2年の検討を経て2022年2月、欧州委員会は、児童労働や奴隷制度から汚染や排出、森林破壊や地球への被害に至るまで、人々と地球への影響を特定、評価、予防、軽減、対処、救済する企業の義務を定めた「欧州コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令案(Corporate Sustainability Due Diligence Directive:CSDDD)」を発表した。その後、2023年12月には最終草案として承認を受け、欧州議会理事会常駐代表委員会の採決を残すのみだったが、ドイツが土壇場で棄権表明し、イタリアまで巻き込んでしまったことで大きく流れが変わった。2月28日の理事会では、ドイツ、イタリアを含めた13ヶ国が棄権し、スウェーデンが反対票を投じたのだ。EU27ヶ国中過半数が土壇場で反旗を翻し、棄権しなかったまでもフランスが大幅な譲歩案を出す等の大混乱が生じた。その後、CSDDDは3月15日、9回という過去例を見ないほどの会合を経て合意(*注)を見たが、「骨抜き」と揶揄されるほどその内容は当初案とは大きく異なるものになっての合意だった。骨抜きと言われる所以は①規制を受ける企業規模の拡大によって対象企業数が約7割減少という大幅規模な縮小(対象企業数は一説によると欧州企業の0.05%)、②高リスクセクターという概念の削除、③サプライチェーンの定義から「間接的な」下請け企業の削除、④気候変動関連実施促進義務の削除、⑤違反時の制裁における民事訴訟の削除の5つがあげられる。この合意は、「EU森林破壊規制(EU Deforestation Regulation)、EU強制労働規制(EU Forced Labor Regulation)、EUグリーン請求権指令(EU Green Claims Directive)、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)などを通じて確立された要求事項に沿って、EUを拠点とする企業や欧州でビジネスを展開する大規模多国籍企業が、最終的なサプライチェーンに対するデューデリジェンスを実施する必要性を強化するものである」とされている。この中でCSRDは企業の開示における法律の根幹であるが、日本的に言うと法律に対する内閣府令的な規則である産業別欧州サステナビリティ報告スタンダード(ESRS)の発表が延期されており、CSRDが今後最終化されるまでに骨抜きになる可能性も高いと感じるのは筆者だけであろうか。

気候変動関連開示はISSBに収斂し、その後の非財務情報関連開示の焦点は人的資本開示へ  

 3月26日に公表された世界最大の資産運用会社が投資家に宛てたCEOメッセージは、ある海外メディアによると「ESGを捨て『エネルギー現実主義(energy pragmatism)』に転換」といわれるような衝撃的なものだった。このメッセージの中の小見出しで「Energy pragmatism」と題したパラグラフでは以下のように記載されている。

    

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