宝印刷D&IR研究所

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調査研究報告Research

研究員コラム

小谷主席研究員

研究員コラム「なんとなくマテリアル  - マテリアリティってなんだ? -」を発行しました。

 当研究所が先月末に発表した2022年 12 月末時点の統合報告書発行企業数は872社となり、昨年同時期から154 社(21.4%)の増加となった。プライム市場上場企業がやはり多く、794社なので、実に43%もの企業がなんらかの形で統合報告書を発行していることになる。増加率は巡航速度に入ったとは言え、プライム市場上場企業の多くが統合報告書を発行しているとなると、横並び意識の強い日本企業、同業他社が統合報告書を発行しているらしい、ということになるとうちも検討すべきだという話になる。そんなこともあり、今年の統合報告書発行企業は1,000社を超えることになるかもしれない。統合報告書の作成で、筆者が考える一番重要なポイントの一つが、マテリアリティである。しかし、このマテリアリティが何とも難物なのである。

言葉の定義  

 130年ほど前の、明治時代後半にフランス、ドイツ等の商法をベースに作られた日本の商法をベースにした財務諸表は、その後、「企業会計原則」として1949年に制定され、その長い歴史から極めて精緻な定義を持っている。一方、企業価値を測る上で昨今重要性が叫ばれている非財務情報の歴史はここ20年程しかない。  日本は先人の見識で英語をカタカナで表して日本語でその意味を定義し、長い年月を経てその定義が浸透し、日本語で理解している。しかし、新しく入って来た概念、例えば、非財務情報における術語は適切な日本語が無いことから、定義が人によって異なると感じる。その際たるものが「マテリアル、マテリアリティ」ではなかろうか。

 昨年3月末にIFRS財団が非財務情報開示の標準化に関連して国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)発足を前にして「IFRS S1 サステナビリティ関連財務情報の開示に関する一般要求事項(以下【ドラフト】IFRS S1とする)」という標準化の原案ともいうべき草案を公開し意見募集を開始した。本草案についての検討は、昨年8月のISSB正式発足後、毎月議論が重ねられその内容が公開されている。そして、昨年12月の会議の議事録で「どのような持続可能性リスクと機会について企業が情報提供を求められるかを説明するための要求事項案から、『重要(significant)』という言葉を削除する。一方、重要性(materiality)の適用及び、作成者が企業の持続可能性関連のリスクと機会、特に主たる利用者に有用な情報を提供するために、企業が情報提供を求められるものを識別するために用いるプロセスについては、引き続き検討する」としているように、術語の使い方にはきわめて精緻な議論や、それら定義を形作るバックグラウンドがある。

    

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