宝印刷D&IR研究所

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調査研究報告Research

研究員コラム

小谷主席研究員

研究員コラム「ESGは打ち出の小槌か?」を発行しました。

 誤解をさけるため冒頭に申し上げておく。企業が環境や、根本的な社会課題への配慮は企業価値を向上させるためにとても重要であることは間違いない。そして、企業価値に影響するようなマテリアルな内容の議論や、その議論の結果、その考え方についてはきっちりと開示すべきである。この点は、これからご紹介する議論とは切り離して重要だという点は決して譲ることはできない。しかし一方で、全企業に対して形式的に全ての項目を遵守させることは、コーポレートガバナンスという観点から、逆に企業価値を毀損するリスクがあるということも事実であるといった議論が最近米国資本市場では取り上げられるようになっている。今回の研究員コラムではこの点を考察してみたい。

気候変動はすべての企業にマテリアルではない?

 2015年、7年も前にオマハの賢人と呼ばれる、ウォーレン・バフェット氏がCEOを務めるバークシャー・ハサウェイ社の「2015年アニュアルレポート」(*注1)の中でバフェット氏は「気候変動が地球にとって大きな問題となる可能性は高いと思われる。『可能性が高い(highly likely)』というのは、私には科学的な素養がなく、Y2K(*注2)に関する多くの「専門家(experts)」たちの悲惨な予測をよく覚えているからである。(中略)一市民として、気候変動に夜も眠れなくなるのは当然かもしれないし、低湿地帯に家を持つ人は、引っ越しを考えるかもしれない。しかし、大手保険会社の株主としてだけ考えるなら、気候変動は心配の種にならないはずである。」と述べている。このレターから6年後の昨年2021年、カリフォルニア州公務員退職年金制度(カルパース)等が2021年開催株主総会の株主提案提起した「2022年の年次株主総会前から、当社が物理的・過渡的気候関連リスクおよび機会にどのように対処しているかを示す年次評価を公表するよう要請」でも同様の意見で同社取締役会は株主提案に反対した。当株主総会では、2015年の株主への手紙を参照した上で「取締役会は、バークシャーがその子会社や投資先組織ごとに物理的および過渡的な気候関連リスクと機会をどのように管理しているかを取り上げた年次評価を発行する必要があるとは考えていない。」としており(*注3)、同社がコストをかけて更なる気候変動に対する開示を行うことに対しては消極的であり、且つ、その意見が71.7%の反対票を投じた投資家の支持を得ているのも事実である。

    

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